建物明渡しの強制執行には、どのくらいの費用がかかるのでしょうか?

建物の明渡しを命じる判決が出ると、国や裁判所が自動的に強制執行をしてくれると思っている方もいるかもしれませんが、そうではなく、家主の方で、別途、強制執行の申立をする必要があります。そのための費用は、全部、強制執行を申し立てた家主側の負担になります。

建物明渡しの法的手続を検討される家主の方が、一番頭を悩ませるのが、この強制執行の費用です。

それでは、具体的にどの程度の費用がかかるのでしょうか?

強制執行に必要な費用としては、①申立の際の予納金②執行業者(執行補助者)に対する費用があります。

(1)  予納金

まず、執行官に対する申立の時に、執行官に対してお金を預けます。これを予納金といいます。内訳としては、執行官手数料、立会費用、交通費、郵便代等です。東京地方裁判所の場合は、基本額が6万5000円とされています(ただし、これは物件1個、相手方1名の場合で、物件や相手方が増すごとに2万5000円が追加されます)。
この予納金の中から、実際にかかった費用(執行官の手数料)を差し引いて、手続が終わった段階で余りがあれば返してくれます。

(2) 執行業者(執行補助者)に対して支払う費用

強制執行は執行官に対して申立をしますが、実際に動産類の搬出等の作業をするの執行業者(執行補助者)であり、強制執行にかかる費用で一番大きな金額になるのが、この執行補助者に支払う費用です。
内訳は次のとおりです。

①催告時日当
解決までの流れでご説明したとおり、強制執行申立後、執行官が物件に赴き、現況を確認した後、明渡期限や占有移転禁止等を定めた「公示書」を建物に掲示するとともに、,借主に「催告書」を交付してきます。
この際、通常、執行補助者も同行し、物件内の動産類を確認し、どのような方法で搬出・保管・売却するのが適当かを判断し、執行(断行)にかかるおよその時間、運搬費用、保管費用等の見積もりをします。ほとんど引越業者の見積もりです。
このように執行補助者に立ち会ってもらう際の日当が必要になります。日当の金額は業者によって異なりますが、1万5000円~2万円程度です。

②断行時作業料

断行とは、建物内から什器備品、家具、その他相手方が所有している動産類を全て運び出して、空室の状態にすることです。そして、運び出した荷物はトラックで倉庫に運んで保管します。このための作業員、トラックの費用、倉庫保管料などがかかります。これら作業員の日当やトラックなどの費用が執行補助者に対する費用になります。
しかも、執行官は1日に複数の現場を回るため、荷物の運び出しの作業は、短時間(場所にもよりますが、通常2時間程度)で行うことになります。そのため、それなりの人数の作業員が一気に作業を行うことになります。従って、それなりの費用がかかってしまうのです。

その金額費用については、1人暮らしのワンルームなどでは20~25万円程度、ちょっとしたアパートでは40万円程度になります。さらに、ファミリー型のマンションでは50~60万円程度かかることもあります。大勢の家族が居住する一軒家などは家具も多くなりますから、さらに高額になります。

また、貸店舗の飲食店のように什器備品が多く、巨大な冷蔵庫などがあったりすると相当高額になります(店内の広さと什器備品等の量によって異なるので一概には言えません)。

この金額だけをみると「結構費用がかかるなあ」と思われるかもしれませんが、家賃の滞納が続くことを考えれば、強制執行の費用は必要経費であると割り切って早めに法的手続に着手した方が経済的なメリットは大きいことが多いのが実情です。