訴え提起前の和解とは
借主に滞納家賃の支払いを請求したところ、借主から「通常の家賃の支払いに上乗せして、滞納家賃を支払うので、賃貸借契約を解除しないでほしい」と懇願されて、その旨の和解をすることがよくあります。
当然、その合意の内容を書面にしておくべきですが、この場合には公正証書の作成ではなく、いわゆる「訴え提起前の和解」(通常「即決和解」と呼ばれます)によるべきです。
借金の返済や養育費の支払いについては、万一、支払いを怠った場合には、訴訟を提起することなく、直ちに給与差押え等の強制執行を行うことができるようにするために、公正証書を作成することはよくあることです。
しかし、公正証書では、金銭債権を満足させるための強制執行をすることはできますが、建物明渡しの強制執行をすることはできないのです。
したがって、借主が再び家賃の支払いを怠った場合には、訴訟を提起することなく、直ちに建物明渡しの強制執行の申立てができるようにするために、「訴え提起前の和解」によるべきなのです。
手続きの流れ
訴え提起前の和解の申立方法・手続きの流れについて、裁判所のホームページから引用します。
1.各種民事紛争の発生
訴え提起前の和解は、裁判上の和解の一種で、民事上の争いのある当事者が、判決を求める訴訟を提起する前に、簡易裁判所に和解の申立てをし、紛争を解決する手続です。当事者間に合意があり、かつ、裁判所がその合意を相当と認めた場合に和解が成立し、合意内容が和解調書に記載されることにより、確定判決と同一の効力を有することになります(民訴法267)。
2.当事者間の事前の話し合い和解条項(案)作成
訴え提起前の和解の申立てから和解期日指定まで平均1か月程度を要します。したがって、建物等の明渡し、金銭の支払を要する和解については、この点を考慮に入れて明渡日や支払日を検討してください。
3.訴え提起前の和解の申立て
訴え提起前の和解は「民事上の争い」がある場合に申立てをすることができるものですから、申立書にこの点を必ず記載するようにしてください。
4.申立書審査
申立てがあると、審査の結果、書類の追完、和解条項の修正をお願いすることがあります。修正等が完了すると、和解期日の指定手続に入ります。和解期日を指定する際には希望日をお聞きします。裁判所に出頭できる日を相手方と打ち合わせ、裁判所に希望日(連絡日から10日以上先の日)を連絡してください。これは相手方に期日呼出状等を送付する必要があるためです。
5.期日呼出
修正された和解条項は、期日呼出状と共に相手方に送付し、和解調書正本にも使用します。そのため和解条項4部、当事者目録3部(相手方に代理人が予定されている場合は、その旨の記載のあるもの)、物件目録及び図面(必要がある場合に限る)各4部を期日指定後速やかに提出してください。なお、提出書類には頁を記入しないでください。
6.和解期日
和解期日当日、当事者双方が和解条項について合意し、かつ、裁判所が相当と認めた場合に和解が成立し、和解調書が作成されることになります。和解調書正本は、原則、和解期日当日に双方に交付します。